医学部入学を目指す皆さんは、医学部に入学の方法の中に「地域枠」というものがあることをご存知でしょうか?
地域枠とは簡単に言ってしまえば、いくつかの制限がある一方でメリットもまた多く得られる入学枠のことです。
一般枠での医学部入学を目指している受験生の皆さんも、この地域枠について知っておいて損はないでしょう。
なぜなら一般枠での入学を目指している人の中にも、地域枠での入学に向いている人がいるかもしれないからです。ここでは、医学部の地域枠について詳しく解説していきます。
1.医学部地域枠とは
医学部地域枠とは、医学部を卒業した後ある一定の期間その医学部がある地域で勤務したり、指定された診療科で勤務したりすることを条件に、多額の奨学金の貸与を受けることができる制度のことを言います。
この貸与される奨学金は、医学部側が提示した勤務条件で一定期間医師として働き続けることで、返済しなくて済むようになります。
これは学生側には経済的に非常にメリットがある条件ですが、実は医学部やその医学部がある地域にとってもメリットがあるのです。
その理由とは、その医学部がある地域が医師不足であったり、ある特定の診療科の医師が足りなかったりした場合に、医師を確保できるという点です。
地域枠は卒業後の一定期間の勤務先が医学部側から決められているため、志望する人は一般枠より少なく、偏差値も倍率も低くなっています。
そのため、一般枠より地域枠で受験したほうが簡単に医学部に合格できるといえるでしょう。
2.医学部地域枠での医学部入学に向いている人とは
医学部の地域枠については、前章で解説してきました。
このような医学部地域枠を利用して医学部に入学することに向いているのは、どのような人なのでしょうか。
ここでは、地域枠での医学部入学に向いている人について解説していきます。
(1)経済的に医学部への進学が難しい人
国公立の医学部では、授業料は他の学部とほとんど変わりません。
しかし、私立の医学部の授業料は非常に高額であることが一般的です。
そのため、私立の医学部に入学したいと思っていても、経済的な理由であきらめざるを得ない受験生もいます。
このような受験生は、地域枠で医学部に入学することで高額の奨学金を借り受けることができます。その奨学金で授業料のみならず、生活費までも賄うことができるケースも少なくありません。
しかもこの借り受けた奨学金は、大学側が提示した条件を満たせば、返済の義務はなくなります。
このような理由から、経済的な問題を抱える医学部志望の受験生に地域枠での医学部入学はメリットがあるといえます。
(2)医師のなり手が少ない診療科に興味があり今後希望を変更しない自信がある人
地域枠で医学部に入学して奨学金の貸与を受ける場合、大学側から卒業後一定期間勤務先を指定されることになります。
その指定される勤務先は、現在医師が少ない地域や、医師不足に悩まされている診療科です。指定される診療科は、救急、小児科、産婦人科といった診療科が多いのですがそれに加えて、離島やへき地での医療に従事することが条件となることもあります。
つまり、必ずしも自分で希望する診療科の医師になることができるわけではないということです。
しかし、逆に考えるとこれらの診療科や、離島・へき地医療に従事したいと考える人には、非常にメリットが多い入学方法であるといえます。
(3)一医師として勤務することを希望する人
地域枠で医学部に入学した場合、卒業後一定の期間は大学側が定めた診療科や地域で医師として働く義務が生じます。
このときにへき地や離島での勤務を言い渡された場合、最新の設備や知識を、身をもって学ぶことができないため、その後のキャリアアップが望めないといった声も多く聞かれます。
また、一定期間医師として勤務する診療科も大学側から指定されるため、自由に選ぶことはできません。
このような不自由さを苦にしない人、医師としてのキャリアアップにあまり興味がなく、生涯一医師として働くことを希望する人に地域枠での医学部入学は向いています。
(4)希望する医学部に合格するには偏差値が足りない人
地域枠は一般枠に比べて倍率と偏差値、共に低い傾向があります。
そのため、一般枠での医学部入学が難しい人にとっては、地域枠のほうが合格しやすいというメリットがあります。
3.医学部地域枠と一般枠の違いは?
医学部の一般枠と地域枠には、3つの大きな違いがあります。
ここでは、一般枠と地域枠の違いについて解説していきます。
(1)奨学金の貸付を受けることができるため地域枠のほうが一般枠に比べて経済的負担が軽い
地域枠で医学部に合格すると、自動的に多額の奨学金を借り入れることができます。
また卒業後に大学が定めた勤務先で一定期間医師として勤務することで、返済の義務もなくなります。
一般枠の場合にはそのような奨学金の制度はなく、教育資金を自分で準備できない場合には、金融機関の教育ローンなどを組んで自分で調達しなければいけません。
この経済的な負担の差が、一般枠と地域枠の違いの一つとなっています。
(2)地域枠で卒業し医師になった場合一定期間就業先などについて縛りがある
一般枠で医学部に入学した場合、卒業後は自由に勤務先や診療科を選ぶことができますが、地域枠の場合には、大学側が定めた勤務先で一定期間勤務する必要があります。
この卒業後の勤務先や診療科を自由に選択できるかどうかも、一般枠と地域枠の大きな違いとなります。
(3)医学部地域枠で合格した場合入学辞退ができない
一般枠で医学部に合格した場合には、必ずしもその大学の医学部に入学する必要はなく、他の医学部に合格していればそちらに入学することも問題になりません。
しかし、地域枠で医学部に合格した場合、入学を辞退することはできず、必ずその大学の医学部に入学する必要があります。
そのため、地域枠で医学部に入学する場合、その医学部の特色などが自分に合っているかどうかといった点を慎重に考慮する必要があります。
4.医学部地域枠の受験資格(順天堂大学地域枠の場合)
地域枠で医学部を受験する場合、一般枠で入学する場合に比べて厳しい条件があります。
その条件は医学部により異なります。順天堂大学を例にとると
- 都内在住で高等学校等を卒業したものおよび来春卒業予定のもの、都内高等学校等を卒業したものおよび卒業見込みのもの
- 本学(順天堂大学)に入学しようとする意志を有し、合格した際に入学を確約できる者
- 医師免許取得後、直ちに、東京都内の地域で、小児医療、周産期医療、救急医療、へき地医療を担う医療機関において、大学在学期間(休学や留年等により奨学金の貸与を受けなかった期間を除く)の1.5倍の期間、医師として従事しようとする意思があること
といった条件を満たさなければ、地域枠で医学部を受験できません。
自分が希望する大学の医学部の地域枠を受験するためには、どのような条件を満たす必要があるのかを、事前にしっかりと調べておきましょう。
5.医学部地域枠のメリットとデメリット
地域枠で医学部に入学することには、メリットとデメリットがあります。
ここでは、そのメリットとデメリットについて解説していきます。
(1)メリット
地域枠での医学部入学には、以下のようなメリットがあります。
①経済的な問題で医学部進学を諦めなくてよい
地域枠で医学部に入学すると、授業料と時には生活費をも賄えるような金額の奨学金の借り入れを受けることができ、卒業後一定の期間大学側が定める勤務地で医師として勤務することで、返済の義務もなくなります。
そのため、経済的な理由で医学部への入学が難しい受験生にとって、地域枠は大きなメリットがあるといあるでしょう。
②地方医療現場の医師不足の解消に役立つ
地域枠で医学部を卒業した場合、卒業後一定の期間は大学側から指示された診療科や地域で医師として勤務することになります。
このような場合、大学側から指示される勤務先は医師不足の現場であることがほとんどです。
そのため、地域枠で大学を卒業した医師がこのような医師不足の現場で勤務することにより、医師不足の解消につながります。
このように地域枠という制度は、受験生だけではなく大学や地域医療にとってもメリットがある制度となっています。
(2)デメリット
地域枠での医学部入学には、以下のようなデメリットがあります。
①在学期間中または中途退職の場合には高利で奨学金を返済しなければならない
地域枠で医学部に入学した場合、多額の奨学金を借り入れることができることは前述しました。
しかしこの奨学金には、高い金利が付き、時には10%程度になることもあります。
一般的な金融機関から融資を受けることができる教育ローンの金利は1%から3%程度であるため、地域枠の奨学金の金利はかなり高額です。
無事卒業し、大学が定めた勤務先で規定の期間勤務することで、返済の義務はなくなります。
しかし、医学部を中退したり卒業後の勤務先を規定の期間勤めあげなかったり場合には、この奨学金を、利息を添えて時には一括で返済しなければならないこともあるといったデメリットがあります。
②指定された勤務先では最先端の医療に携わる機会がない又は少ない場合もある
地域枠で医学部に入学し、無事卒業した後に大学側から指定された勤務地が、離島やへき地であった場合には、最先端の知識や設備に触れる機会が極端に少なくなることも考えられます。
医学の世界は日進月歩であるため、離島またはへき地勤務を終えて自分が希望する診療科や地域で活躍したいと思ったときに、その時の知識や機器の扱いについていけない恐れもあります。
まとめ
ここまで、医学部の地域枠について解説してきました。
地域枠と一般枠の違いについてお分かりいただけたと思います。地域枠での入学は、経済的なメリットが多い反面、将来の勤務先を一定期間縛られるというデメリットがあります。
地域枠での入学を希望する場合には、そのデメリットすらも活かして自分が理想とする医師として働くことができるかどうかを慎重に考慮しましょう。