聖マリ医科大入試問題

聖マリ医科大の入試問題を「差別」と認められない理由

はじめに

2020(令和2)年1月17日、聖マリアンナ医科大学のWebサイトに「本学医学部入学試験に関する「第三者委員会」の調査報告書について」と題するニュースが掲載された。
これは2018(平成30)年以降に世間を騒がせた大学医学部・医科大学での不正入試(男女および現役・浪人差別)問題に関連して、聖マリアンナ医科大学に対し第三者委員会がおこなった調査の結果報告書である。

結論から言えば、聖マリアンナ医科大学の入試委員長らは差別的取扱いの存在を認めなかったが、第三者委員会は差別的取扱いがあるものと認定した。

医学部入試差別問題と第三者委員会

まず、聖マリアンナ医科大学の入試に対して第三者委員会の調査がおこなわれるに至った経緯を簡単に確認しておく。

(1)医学部入試差別問題とは

2018(平成30)年7月に起きた文科省職員の東京医科大学入試に関する受託収賄罪が契機となり、同大学の内部調査で特定受験者への加点、性別・現役/浪人の属性に応じた加点がおこなわれていたことが判明した。これが入試差別問題の発端である。

(2)文科省の大学入試試験室による緊急調査

この問題を受けて、文科省大学入試試験室では同年8月から、聖マリアンナ医科大を含む国公私立大に対し、入試の実施体制や状況などについての緊急調査を実施した。

(3)聖マリ医科大の回答と入試試験室の指摘

聖マリアンナ医科大は緊急調査に対し、性別・現浪区分に基づく一律の差別的取扱いはおこなっていないと回答。
しかし入試試験室は、同年12月14日付の緊急調査最終まとめにおいて、聖マリアンナ医科大における平成28年~30年の入試は不適切との可能性が高いと指摘した。これを受けて聖マリアンナ医科大の監事らによる監査がおこなわれ、平成30年度入試での差別的取扱いの事実は認められなかった旨の報告がなされた。

(4)第三者委員会の発足

監事らの報告を受けた大学入試試験室は、聖マリアンナ医科大との利害関係のない独立した委員のみで構成される第三者委員会を設置し、理事長や学長、入試委員へのヒアリング、書証の検証や各種分析などを事実関係の調査対象とすることを求めた。
これにより聖マリは2019(平成31)年3月29日、第三者委員会の設置を決定し、調査・原因分析・再発防止策策定を委嘱した。

不適切入試に関する調査について

調査報告書では、差別的取扱いの有無を調べるにあたって、いつ、何を、どうやって調査したのかもまとめられている。具体的には以下の通りである。

(1)調査期間と対象

調査期間:2019(平成31)年3月29日~2019(令和元)年8月23日
調査対象:平成27年度~平成30年度の一般入試

(2)調査内容

①調査対象年度の一般入試に対する疑義に関する以下の調査

  • 理事長、学長、医学部長、その他理事長へのヒアリング
  • 入試委員長、入試副委員長、その他入試委員へのヒアリング
  • 志願票・調査書の採点結果、内訳・採点結果の分布
  • 志願票・調査書に基づく評価の点数が、男女別・現浪区分で大幅な差がある理由の分析
  • 志願票・調査書に基づく評価の点数帯が、男女で異なることの理由の分析

②本件疑義に類似する事案の存否に関する調査

③問題があった場合、①②で確認された事実関係に関する原因分析および再発防止策提言

(3)調査方法

  • 関係者に対するヒアリング
  • 関連資料(大学規定、入試要項、志願票・調査書、入試結果一覧、その他資料)の分析
  • フォレンジック調査(関係者パソコン等および入試作業室パソコンの電子データ調査)
  • ホットライン調査(メール、郵送、電話での通報受付)
  • 現地実査(入試における合否判定会議等の開催場所、入試作業室パソコンの設置状況、その操作方法、入試管理システムの稼働状況の確認など)
  • 専門アドバイザー(埼玉県医科大学医学部教授名越澄子教氏)による専門的な助言

聖マリ医科大の入試体制

入試において不適切な操作がおこなわれたかどうかを検討する前提として、聖マリアンナ医科大の一般入試はどのような体制で実施されているのかを見ておく。

(1)入試の執行・担当機関

聖マリアンナ医科大では、入試に関する事項は入試委員会が執りおこない、入試委員会に関する庶務は教学部教育課が担当することとなっている。


入試委員会は学長の嘱託を受けた教授・准教授・講師5~7名で構成され、委員長は学長の、副委員長は委員長の指名により選任される。また、任期は原則3年だが再選も認められ、通例としては半数改選で2期6年間を務めることとなっていた。


教学部教育課は医学部・大学院の教育研究に係る事務を担当する部署であり、入試に関しては学生募集や入試・入学広報関連、入試成績の管理や処理などの事務を所掌している。

(2)聖マリ医科大の入試制度

聖マリ医科大の試験制度

聖マリアンナ医科大では「一般入学試験」「指定校推薦入学試験」「一般公募制推薦入学試験」の3種類の試験制度がある。


今回の第三者委員会で調査対象となったのは一般入学試験であり、これは第1次試験および第2次試験によっておこなわれる。第1次試験では英語(100点)・数学(100点)・理科(200点)の学科試験が実施され、その合格者に第2次試験の適性検査・面接(100点)・小論文(100点)を課す。そのうえで第1次・第2次の試験成績に出願書類を総合して評価し、合格者が決定されるというものである。これは、入試要項にも記載されている。

出願書類には「志願票」と「調査書」がある。
聖マリアンナ医科大の志願票には住所・氏名・生年月日・出身校のほか、スポーツや課外活動、大会成績、取得資格を記入する欄があり、加えて6行程度の志望動機記入欄が設けられている。


調査書とは在学中または出身の高校が発行する書類であり、一般に志願者の学業成績のほか、出席日数や特別活動の記録、特技や部活動、取得資格などが記載されている。


なお、志願票や調査書に配点があるかどうかは、志願者には事前に示されてはいなかった。

(3)聖マリ医科大のアドミッション・ポリシー

聖マリアンナ医科大では、2014(平成26)年にアドミッション・ポリシー(入学者受入方針)が作成され、求める学生像や評価項目はこれに示されている。

聖マリ医科大のアドミッション・ポリシー


本ポリシーには、求める学生が備える要素として「医師を目指す明確な目的」や「品格と倫理観」、「知性と科学的論理性」、「豊かな感性」、「協調性」、「広い視野」などが挙げられている。
また、求める学力として数学、理科、英語のほか、小論文試験では「読解力および表現力、論理的思考力」を重視し、面接試験では「積極性、協調性、社会性」を中心に評価すると表明されている。

以上から、聖マリアンナ医科大の一般入試では、アドミッション・ポリシーに基づき、第1次試験(学科)と第2次試験(面接・小論文等)の成績に出願書類を総合して、合否判定がおこなわれていたといえる。

一般入試における「一律の差別的取扱い」の存否

第三者委員会の調査では、聖マリアンナ医科大の一般入試で「一律の差別的取扱い」があったものと認められるとの結論が出た。この差別的取扱いとは、女性や多浪の受験生が不利に扱われたというものである。


ここでは、差別的取扱いを否定する聖マリアンナ医科大側の主張と、差別的取扱いの存在を認めた第三者委員会の論拠を整理する。

(1)問題とされた出願書類の採点

今回の第三者委員会による報告書で差別的取扱いが問題とされたのは、第1次試験(学科)および第2次試験(面接・小論文等)の採点ではなく出願書類、すなわち志願票と調査書の採点である。

入学試験の採点方法


前述の通り、聖マリアンナ医科大の一般入試では、第1次試験においては数学・英語がそれぞれ100点満点、理科が200点満点の計400点満点、第2次試験においては面接・小論文がそれぞれ100点満点の計200点満点、合わせて600点満点となっている。
これに適性検査の結果や出願書類を総合し、合否判定をおこなうわけである。

これらに対し、志願票と調査書にも点数が割り振られていた。
2015(平成27)年度入試では志願票と調査書がそれぞれ40点満点で計80点、2016年(平成28)年度入試では同様の40点満点ずつに加えて「資質上の疑義」という項目が導入され、-60点を上限とするマイナス要素の評価がおこなわれた。


続く2017(平成29)年度入試では志願票が40点満点、調査書が120点満点の計160点に加え、資質上の疑義は-160点が上限と大きく増加された。そして2018(平成30)年度入試では志願票が60点満点、調査書が120点満点の計180点に、資質上の疑義は-180点とされた。

つまり、その年度によって異なるが、第1次・第2次試験の合計点600点満点に対し、志願票・調査書の配点が80点~180点となっており、ここに合否を左右し得るだけの点数操作を可能とする余地が生まれたわけである。
以下、志願票と調査票に関する聖マリアンナ医科大側の主張と、「差別あり」とする第三者委員会の論拠を見ていこう。

(2)元入試委員長らの主張について

聖マリアンナ医科大の入試は入試委員会によって執りおこなわれているため、大学側の主張は調査対象年度における元入試委員長らの主張として捉えることができる。

第三者委員会の調査報告書では、志願票・調査票の採点について、入試委員長1名および入試副委員長2名の計3名でおこなったとされている。手順としては、先に3名で受験者50名程度の採点をおこなって採点方針の共通認識を形成してから、各入試副委員長が残りの採点をし、入試委員長が資質上の疑義の項目を採点するというものである。

元入試委員長らのヒアリングによれば、各評価項目について「客観的かつ明確な評価基準は予め定められておらず」、評価は「採点者の裁量に大きく委ねられていた」という。

ただ、いずれにしても志願票・調査書は個別に採点しており、性別・現浪区分を理由とした一律の差別的取扱いはおこなっていない、との主張がなされている。

(3)第三者委員会の認定の論拠

第三者委員会は、性別および現浪区分と志願票・調査書の採点結果とされる点数の関係を整理し、分析をした。

その際に活用したのは、大学が提出した第2次試験成績一覧の資料と、その資料に基づいて割り出した現浪区分のデータ、およびフォレンジック調査によって発見された入試情報の記載されたエクセルファイルである。

論拠① 現浪区分による点数分布および男女の点数差が一定

この点数分析によれば、2015(平成27)年度入試から2018(平成30)年度入試まで、現浪区分による点数分布および男女の点数差が、90%以上の受験者についてほぼ一定であることが判明した。

入学試験の点数分布


たとえば男女の違いについて見ると、受験者の90%以上において、現役の男女間の点差が60点、1浪の男女間の点差も60点、2浪の男女間の点差も60点、3浪の男女間の点差も60点、という数値になっているわけである。

もし元入試委員長らが主張するように、志願票・調査書を個別に採点していたとすれば、このように綺麗に点差が揃うことは考え難い。機械的な点数操作が推認されるのである。

論拠② フォレンジック調査によるエクセルファイルの記載枠

第三者委員会が聖マリアンナ医科大の入試作業室のパソコンから発見したエクセルファイルには、受験者の受験番号のほか、志願票・調査書の点数等と思われる数字が記載された表があった。このエクセルファイルは2016(平成28)年度入試の第2次試験の試験日と一致していた。

入試情報が記載されたエクセルファイル


この表には「男性調整点」との記載枠があり、そこには「19.0」と記載されていた。そして、第三者委員会による平成28年度入試の点数分析でも男女の点数差が19点となっており、数値が一致している。また、この表には同様に「現浪区分」との記載枠もあり、そこに記載された数値は、同年度の入試で現役生・1浪生・2浪生に対して一律に加算されたと疑われる点数と一致していた。

このエクセルファイルの存在もまた、性別や現浪区分に基づく差別的取扱いの疑いを強めるものといえる。

論拠③ 志願票・調査書の模擬採点結果と実際の採点等に差がある

以上のような数値的なデータに加え、第三者委員会は元入試委員長らに対し、ヒアリング時に抜き打ちで志願票・調査書の模擬採点を実施させた。この際には、性別や現浪区分などがわからないように、氏名や性別、生年月日といった情報を黒塗りにした。

その結果、大学から提供を受けた第2次試験の成績一覧に示されている点数と大きく異なるだけではなく、監事監査後に別口で実施された再採点とも異なる結果となった。

こうした採点結果の相違が生じた理由について、元入試委員長らのおこなった弁明は、聞き間違いや入力間違いの可能性といった、合理性に欠ける不自然なものであった。

性別や現浪区分を伏せて採点させたら異なる結果となったわけだから、それらの要素に基づく差別的取扱いがあったと考えるのが自然であろう。

論拠④ 点数調整を窺わせるエクセルファイルの項目やメールの存在

フォレンジック調査によって発見された上記エクセルファイルには、「2次調整合計」という項目があった。これは、志願票・調査書の評価には関係なさそうな項目であり、点数調整を窺わせるものといえる。

また、元入試委員長の送信した電子メールには「現浪7という区分であったことを差し引いても合格圏内であったが」という記述があり、これは現浪区分による差別的取扱いの認識が元入試委員長にあったことを窺わせる。

以上からすると、元入試委員長らの主張は不明瞭もしくは不自然であり、評価基準も不明確で、エクセルファイルの作成経緯等の説明もなされなかったのに対し、第三者委員会の認定の論拠は明確で、数値による裏付けも存在するといえる。

したがって、聖マリアンナ医科大の一般入試で「一律の差別的取扱い」があったと見なせよう。

差別的取扱いが生じた原因の分析

第三者委員会による調査報告書では、差別的取扱いの原因として5つの点を挙げている。

(1)差別的取扱いの生じた原因

  • 公正・適正な入試をおこなうとの規範意識の欠如
  • 入試委員会内でのチェック機能・牽制機能の不全
  • 入試委員会に対する大学の監査・是正機能の不全
  • 進級率・医師国家試験合格率の偏重
  • 聖マリアンナ医科大から窺われる男性医師偏重の意識

(2)原因の分析

まず、教育基本法や大学設置基準、聖マリアンナ医科大の定めるアドミッション・ポリシーのいずれによっても、性別や現浪区分による採点基準の著しい変更は肯定できない。にもかかわらず、年々加点の度合いは増加しており、これは元入試委員長らの規範意識の希薄化や欠如によるものといえる。

次に、調査対象年度において入試委員会は8名で構成されていたが、元入試委員長らの就任期間の長さなどから他の入試委員が意見しづらい空気もあったなど、委員会内部でのチェック機能・牽制機能が働いていなかったものといえる。

さらに、入試委員長の指名や入試委員会の管掌をおこなう立場にある学長や医学部長が、入試や入試委員会に対して十分な監督をしていたともいえず、また入試委員会では議論の内容や結論の記録が付けられていないことから、事後的な確認や是正もできない状態にあった。

加えて、聖マリアンナ医科大では2010(平成22)年度頃から留年者数が増加しているという状況があり、2浪以上の学生は進級率や国家試験のストレート合格率が現役生や1浪生に比べて極端に下がるとの傾向が見て取れたことから、進級率や国試合格率を上げるために優秀な若い学生を集めようとの動きが見られた。

最後に、診療科ごとの男女比の偏りや出産・育児などに伴う短時間勤務、あるいは休職や離職への対応の困難さから、現実的な医療運営には一定の男性医師の確保が必要との認識が入試委員らの中にも存在し、男性合格者の増加への指向と結びついた可能性がある。

こうした調査報告書での分析は、制度的な要因もあれば心理的・意識的な要因も認められ、それぞれ改善の方策が異なるものといえるだろう。

第三者委員会の提言する再発防止策

差別的取扱いの再発防止策として、第三者委員会は4つの点を挙げている。

(1)再発防止策について

  • 公正・適正な入試をおこなう意識の醸成
  • 入試委員会内の相互牽制機能の強化
  • 入試制度の透明性・監督体制の強化
  • 女性医師参画を推進する組織風土の醸成

(2)個々の再発防止策

まず、トップである理事長が率先して内外に対し入試での差別的取扱いをおこなわない旨の方針を発信し、入試委員等に対して公正・適正な入試をおこなう意識を高めるための研修や意見交換等の機会を提供することが求められる。

次に、入試委員長および副委員長の再任回数の制限などにより、在任期間の長期化を防ぐほか、入試委員長に対しても気後れせずに意見を出せるような経歴の持ち主や女性委員の選任、副委員長の選任方法の見直し、入試委員全体での情報共有、定期的な入試委員会のチェックなども重要となる。

さらに、配点や採点基準の周知、受験者への情報公開、入試制度の教授会等への報告・確認をおこない、入試委員会で議事録を作成して学長および医学部長に報告して監督を受けることも必要と考えられる。

最後に、大学全体で男女共同参画への積極的な施策や啓蒙活動をおこない、男性医師偏重を招いた意識を改革してゆかなければならない。

これらの再発防止策のうち、2019(平成31)年度入試においては、元委員長らの解任や女性入試委員の選任、配点項目を募集要項記載の項目に限るといった対策がすでに採られている。
ただ、後述するように、これらだけでは完全な再発防止が難しい面もある。

差別的取扱いに関わる問題について

第三者委員会の調査は綿密なものであり、聖マリアンナ医科大の一般入試における差別的取扱いの存在は、相当程度まで実証されたと見てよいだろう。

しかし、いくつかの問題は残されている。それぞれ検討しておこう。

(1)聖マリ医科大の認識

Webサイトの記述によれば、聖マリアンナ医科大の認識としては次の通りである。

従前より本学は、同省からの上記指摘に対し、出願書類等の評価において、評価者が受験者の出願書類を個別に評価し、評価者の心証による総合評価を行った結果であり、大学として、属性による一律の取扱いの差異や恣意的な取扱いを指示したことはなく、評価者もその様なことはしていないことから、差別の認識はないことを説明して参りました。

本学といたしましては、一律機械的に評価を行ったとは認識しておりませんが、かかる報告を踏まえ、意図的ではないにせよ、属性による評価の差異が生じ、一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があったとの認識に至りました。

つまり、あくまでも一律の取扱いはおこなっておらず、また指示もしておらず、差別の認識はない。しかし、意図的ではないが属性によって評価の差異が生じて入試結果に影響を及ぼした可能性はあるから対応はする、という弁明である。

調査報告書の再発防止策によれば、公正・適正な入試をおこなう意識の醸成が重要とされていたが、そもそも不適正な入試をおこなったという自覚がなければ、公正・適正な入試を目指そうという発想も浮かばないはずだ。

(2)受験者への聖マリ医科大の対応

調査報告を受け、聖マリアンナ医科大の打ち出した受験者へのフォローは、該当年度の第2次試験受験生で入学者または入学辞退者を除く者へ入学検定料相当額を返還する、というものであった。

だが、仮に点数操作によって不合格となったとした場合、受験生の失ったものは入学検定料だけではなく、交通費や宿泊代、他大学の受験機会まで広く及ぶ。加えて、同大学の対応はあくまでも申し出た受験生への返還であり、受験生が気付かなければどうしようもない。

逆に言うなら聖マリアンナ医科大は、入学検定料の返還を超えた範囲の対応まで迫られることのないように差別的取扱いの存在を認めなかったのかも知れないが、そうだとすると再発防止からは程遠いと言わざるを得ない。

(3)医師の性別・年齢と医療現場の環境

もっとも大きな問題は、差別的取扱いがあったとして、それを間接的に招いたと考えられる医師の労働環境は何ら改善されておらず、改善の目処も立っていないことであろう。

現実として、女性医師は妊娠・出産前後のパフォーマンスについて落とさざるを得ず、男性医師や復職した女性医師がフォローしなければならない。また、高齢の医師より若手の医師のほうが元気で体力があるのも当然だ。

だが、たとえ若い男性医師であっても急病や事故などで突然働けなくなることはあり得るし、そうした場合にすぐ人手が足りなくなるような労働環境はそもそも問題である。

「女性が」「多浪生が」というのではなく、全ての医師が一定の余裕をもって働ける環境を目指す必要がある。また、そうでなければ、入試における差別的取扱いの問題が本当に解決したとはいえないだろう。

まとめ

第三者委員会は、聖マリアンナ医科大学の一般入試に関する差別的取扱いの存在を丁寧な調査によって炙り出したといえる。

しかし、同大学では未だに差別的取扱いの認識を否定し、再発防止策も抜本的なものとまでは言い難い。

性別・現浪区分による差別が生じること自体、医療現場の抱える問題に根ざしたものと考えられる。労働環境という観点から医療現場をどう捉え直すか。聖マリアンナ医科大学を含む一連の大学の不適切入試問題は、それを社会に問いかけているのではないか。

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